2018年2月10日土曜日

『大久保利通と明治維新』佐々木 克 著

大久保利通を通じて見る明治維新史。

明治維新を通史的に理解するのは非常に困難である。様々な勢力が異なった思惑を抱え、行動を二転三転させながらぶつかり合い、結果として生まれたものが明治維新であるためだ。それは後の世から見れば一筋の歩みのように見えても、実際には錯綜した動きの集積でしかない。

本書が取り組んでいるのは、この錯綜した動きを大久保利通という人物を軸にして整理し、わかりやすい明治維新史を書くと言うことである。

その意図はかなりの程度成功している。大久保は、幕末明治の歴史を通じて、ずっと表舞台で活躍したほぼ唯一の人物であり、大久保の動きそのものが明治維新だったと言っても過言ではないからだ。本書は、明治維新についての初学者向きのよいテキストといえる。

一方、「大久保利通と明治維新」を掲げるにしてはやや物足りない部分もある。例えば、「あとがき」で著者自身が述べている通り、本書では大久保の内面には深く立ち入ってはいない。大久保の行動を記述するだけで紙幅が尽きてしまい、やや表面的な歴史記述になっているきらいがある。

そして大久保の人生についても、ほとんど記載がないのは残念だ。大久保という人物を軸にしながら、その軸自体があまり語られない憾みがある。特にライフイベント(幼年の頃の勉学、結婚、子ども関係、自宅の建築など)についてはごく簡単にしか触れられない。このあたりはもう少し踏み込んで記載した方がよいと思った。

それから通史とは別のところで非常に興味を持ったのが、大久保利通は天皇像の改革に熱心だったということである。例えば大久保は宮中から女官を排除することを提言している。大久保は、女官に囲まれる柔弱な存在から、万機を親裁する近代的君主として天皇を作りかえようとした。西郷もまた天皇を君主として教育するのに熱心だったというが、大久保と天皇の関係ということも、さらに深く学んでみたいテーマだと思った。

よく整理され、読みやすくわかりやすい明治維新史。


0 件のコメント:

コメントを投稿